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<薬膳コラム>
2018年5月1日(火)
【薬膳コラム】薬狩り
国際中医師、国際中医薬膳師、薬剤師、紡ぐしあわせ薬膳協会認定講師の伊東千鶴子です。
茜(あかね)さす 紫野(むらさきの)行き 標野(しめの)行き 野守(のもり)は見ずや 君が袖振る
この歌は668年5月5日、天智天皇が薬狩りを催した時、額田王(ぬかたのおおきみ)が詠みました。
万葉集に収載されています。額田王に袖を振って求愛の意を示したのは、
かつて夫だった大海人皇子(おおあまのおうじ、後の天武天皇)で、
この時、額田王は大海人皇子の兄である天智天皇の妻となっていました。
紫の にほへる妹(いも)を 憎くあらば 人妻故に 我(あれ)恋(こ)ひめやも
と、額田王に向けて詠んだのは大海人皇子です。諸々の解釈がありますが、
ストレートに受けとめると、かなりドラマチックですね。
薬狩りは鹿茸(ろくじょう、鹿の幼角、袋角)を採ったり、紫草などの薬草を
摘んだりする華やかな宮中行事でした。
日本書紀によると、611年5月5日、推古天皇が薬猟を行ったとされ、
また6世紀に編纂された荊楚歳時記(けいそさいじき)に
「是の日(5月5日)、競いて、雑薬を採る」の記述があり、
中国では早くから行われていたと分かります。
鹿の幼角は春に角が抜け落ちた後、生え変わってから伸びるスピードがとても速く、
鹿から生える茸(きのこ)のようであるということから鹿茸と呼ばれます。
まだ角化していない柔らかい茸毛に覆われた鹿茸は強壮、強精、鎮痛薬であり、
頭眩(ずげん、めまい)、耳鳴り、足腰の弱り、体力の衰えた方の陰萎などに応用されます。
紫草は紫色をした根が染料として使われていました。紫色に染められた衣を
身にまとったのは最高位の方々です。また紫草の根茎は紫根(しこん)という生薬でもあり、
炎症を抑え、肉芽の形成を促進して傷を治します。
紫根は江戸時代、華岡青洲が創った紫雲膏(しうんこう)という外用薬に配合されていて、
現代でも軽い火傷や外傷、痔などに用いられます。
平成30年5月1日
国際中医師、国際中医薬膳師、薬剤師、紡ぐしあわせ薬膳協会認定講師 伊東千子