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<薬膳コラム>
2021年9月1日(水)
【薬膳コラム】彼岸花
薬剤師、国際中医師、国際中医薬膳師、
紡ぐしあわせ薬膳協会認定講師の伊東千鶴子です。
風が涼しくなり、秋を感じるようになると、
土手やあぜなどで鮮やかな
朱色の彼岸花が咲き始めます。
秋の彼岸の頃に咲くので、その名が付きました。
彼岸花には曼殊沙華(まんじゅしゃげ)という
サンスクリット語由来の別名があります。
また、墓地に咲くことから死人花、
幽霊花とも呼ばれています。
こどもの頃、名前もわからないその花の美しさに魅せられ、
摘んで持ち帰ろうとしたら、普段は優しい祖母に
「家が火事になるから、やめなさい」と叱られ、
ひどく驚き、摘んだ花を投げ捨てて、
その場から立ち去りました。
彼岸花が有毒植物であることは薬局に嫁いでから知り、
ようやく祖母の言葉の意味が理解できました。
その鱗茎はセキサン(石蒜)といって、
民間薬として腹水などを排出させるのに、
外用で使われていました。
何年も前に見た実物はしなびて芽が出そうな
小ぶりのたまねぎのようだったと記憶しています。
その毒性ゆえ、取り扱いには充分な注意を要します。
彼岸花も含有するガランタミンという
アルカロイドが同じヒガンバナ科の
待雪草(まつゆきそう)から分離され、
現在、軽度および中等度のアルツハイマー型認知症における
認知症症状の進行抑制に適応する医薬品として認められています。
毒にもなれば薬にもなり得るのが彼岸花です。
そして、その花の艶やかに咲くさまは
隣り合わせにある生と死、人の世のはかなさを
具現化しているようにも思えます。
曼殊沙華 散るや赤きに 耐へかねて(野見山朱鳥)
2021年9月1日
薬剤師、国際中医師、国際中医薬膳師、
紡ぐしあわせ薬膳協会認定講師 伊東千鶴子